アトピー性皮膚炎は特別な病気ではなく、軽症な児を含めると乳幼児の10~20%が罹患している、と言われています。
また年長になるに従い軽症化したり治ることが多いので、乳幼児期に見られやすい体質と考えてもいい かもしれません。
その一方、大きくなってもよくならない子供さんや思春期になってから発症する方もいます。
そのため「ありふれた病気」であるはずのアトピー性皮膚炎が、とても「恐ろしい病気」のように 誤解されている場合があります。
この病気はありふれたものではありますが、長い間通院する必要があります。
大切なのはお子さんやご両親に合ったお医者さんを選ぶことだと考えています。
医院・病院の場所や診療時間が家族の生活に都合がいいのも重要だと思います。
重症な方以外は「名医」や「アトピー性皮膚炎の権威」に診てもらう必要はないでしょう。
ちなみに私は「名医」でも「アトピーの権威」でもないと正直に言っておきます。
アトピー性皮膚炎の治療は医師によって治療方針が異なるところがありますので、私の基本方針をお話したいと思います。
(1) 外用療法は症状に応じてステロイド剤を処方します
1990年代はステロイド外用薬がメディアで否定的に報道され、そのために 、アトピー性皮膚炎が あたかも難治性の病気のようにとらえられてしまいました。
しかし、現在は適切な外用療法をすることにより、アトピー性皮膚炎と上手に付き合いましょうと いうのが一般的な考えです。
症状が軽症のうちに弱いステロイド外用剤を塗って、症状をコントロールしましょう。
そうして自然に完治するのを待ちます。
とはいえ、ステロイド外用薬に抵抗感のあるお母さんはまだまだたくさんおられます。
こうした方に無理にステロイド剤を処方するのは慎んでいます。
まず私とお母さんとの信頼関係をしっかり築くように努力してから、徐々に相談しようと考えています。
ただし、ステロイド外用剤に抵抗感のある方も、このことは知っておいてください。
いわゆる非ステロイド系消炎鎮痛薬含有外用薬(アンダーム・スタデルムなど)や漢方の軟膏は、 外用薬そのものでしばしばかぶれを起こします。
つまり、非ステロイド剤でも副作用はあるのです。
(2) 厳格な食事制限はしません
アトピー性皮膚炎と言われると、「食べ物が原因ではないかと」心配するご両親が多いようです。
確かに1歳までの乳児では卵や牛乳などの食べ物が原因となることがあり、原因となる食品は 除去するようにお願いしています。
その後成長するにつれて胃腸も丈夫になり、そのような食品を食べても症状の悪化を認めなくなる 場合が多いものです。
血液検査でアレルギーの数値が少し高くても、その食品を食べて症状の変化がなければ食事制限 の必要はないというのが私の考えです。
一時期脚光を浴びた厳格食事制限療法(例:あわ・ひえを主食する)は、今や完全に下火です。
もちろん、アナフィラキシーという重症な反応を起こす患者さんの場合は、厳重に除去する必要があります。
このようなお子さんの食物除去を中止する時には、食物負荷試験というものをしなければいけません。
(3) 内服薬はかゆみが強い時などは併用しますが、漫然とした長期投与は控えるようにします
以前は抗アレルギー剤を体質改善剤と説明して、長期内服を勧めていた時期がありました。
しかしながらこういった薬剤を内服したからといって体質が変わるわけではなく、一時的にかゆみや 炎症をおさえるだけです。
アトピー性皮膚炎の治療は、 ①原因・悪化因子の検索と対策、②日々のスキンケア、③外用療法、 が主体で、内服療法はあくまでも補助的療法と現在は考えられています。
ただし、食物アレルギーのお子さんにはインタールという薬を処方することがあり、この薬が効果がある場合には長期の内服をお願いしています。
(4) 民間療法を完全に否定するわけではありませんが、悩みにつけこむアトピー商法には断固反対します
この病気は「ありふれた病気」なのですが、民間療法に走ってしまう方が大勢います。
わが子を一刻でも早く治してあげたいという気持ちはよくわかりますが、民間療法にはさまざまな 問題点があることをぜひ知ってください。
ある報告では、入院が必要になった人の44%が、民間療法により症状がかえって悪化したための 入院だったそうです。
医師も製薬会社も不勉強ではありません。
有望な民間療法が出現すれば、必ず科学的な評価をして、効果があるとわかれば早期に医薬品 として開発するでしょう。(そうすれば製薬会社は大儲けできます)
そうならないのは科学的な裏づけがとれないからなのです。
また、お金儲けが目当ての民間療法、いわゆる「アトピー商法」は今も横行しています。
大金を要求する治療は悪質なアトピービジネスではないかと疑う姿勢を持ちましょう。